2013-06-20

アメリカの免許が届かなかった話

かなり前に解決済みのことなのですが、記録のために書いておきます。アメリカで運転免許を取得した場合、郵送されるのですが、なぜか届かないことがあり、その場合はアクションを起こさないといつまで経っても届かない、という話。

さて、アメリカで運転免許を取得する場合は、日本と同じように筆記試験と実技試験を受けることになります(教習所の合格で実技試験をパスする制度、みたいのはないのだと思います)。で、実技試験に合格した場合、おめでとう、といってその場で渡されるのは temporary license という紙っぺら一枚だけ。ようするに仮の免許証というやつでして、本物は後日、郵送されることになっています。だいたい、合格してから平均して2週間程度で届くようです。仮の免許の有効期限は3ヶ月くらいあるので通常は問題ありません。よね?

私は昨年末、11月ぐらいに実技試験にようやく合格したと思います。ところが年末になっても届かない。おかしいなーと思って、免許を取得したDMV(交通局)に行って「まだ来ないんだけど調べてくれないか」と問い合わせたのですが、あーはいはい、みたいな雑な反応で期間の延長された仮免許が再発行されるしまつ。うーん、そういうものだろうか?

おかしいなあと思っていたのですが、その後、似たような時期に渡米した同僚にも同じ問題が発生していることがわかり、そっちのほうで調べてもらってようやく判明したのですが、届かない、というのは比較的よくある状況なのだそうです。検索するといろんなQ&Aフォーラムも出てきますし、スタンフォードの学生向けのサイトにも載ってますし、サンフランシスコ領事館のFAQにも載っています。

それらの情報や、わたしがその後DMVの人から聞いた情報を総合すると、どうもこんな感じのようです。外国人などが免許を取得しようとした場合、合格の情報はいったんDMVの本部(州都であるサクラメント市にあります)に集められ、そこの法務によって、合格者の現況が調べられます。たとえば合法的に滞在しているかどうかとか。

ところが、なぜかその時点で書類に不備があることがあり、すると滞在状況の調査ができず、そこで手続きが完全にストップしてしまいます。そうなったということはこちらには全く知らされず、単純に確認手続きは何ヶ月でもそこで止まったまま先に進まない、ということのようです。なので、待っていても何も起こりません。何もしなくても1年後には届いた、という話もあるので、いずれは何かが起こるのかもしれませんが……。

また、各地にあるDMVの普通の受付の人は、こういう事情を知らなかったりするようです。調べてくれ、と言っても調査をしない人もいます(ぼくが最初に問い合わせた人もそういうのだったと思う)。そういう人の場合、単に仮免許を再発行しておしまい。でも、データベースを照会して、ビザとかが足りないみたいだね、と教えてくれる人もいます。ほんと人によってマチマチ。

そういう事情であるので、やるべきことはDMVのサクラメント本部の法務部に電話をかけ、事情を説明することです。するとたいてい、ビザとパスポートのコピーが必要だからファックスしてくれ、と言われます。なのでファックスするわけですが、できればさらにメールアドレスをききだして(メールアドレス自体はDMVのなかのページにも一応ありますね。loddlidsp@dmv.ca.gov)、スキャンした電子データをメールでも送信したほうが良いでしょう。で、メールを送ると基本的には翌営業日には返事が返ってくるので、それで手続きの完了がわかって、それから2週間ほどするとようやく届きます。

僕の場合、この電話でのクレームが不慣れで、1回めの電話では「とにかくあと2週間待て」と言われ、2回めの電話ではファックスを送ったが2週間してもなしのつぶてで、3回めの電話でファックスとメールを両方送って、それでようやく届きました。けっきょくいろいろもたもたしたこともあり、免許が届いたのは3月ぐらいだったかと思います。仮免許の有効期間は2回延長しました。

このステータスに陥るかどうかというのはどうも運みたいなもののような気がするので、祈るしかありません(なんの不都合もなく普通に免許が届いた人もいっぱいいます)。個人的には、DMVの職員の一部がダメな人たちで、ビザなどの書類が必要であることを理解しておらず、本部に送ってないとかそういうことだろうと思ってます。まあそれがわかったところで手のうちようはなにもありません。

それにしても、こういう場面でアメリカの役所の事務処理能力の低さを見ると、日本の役所ってのは優秀だったんだなーとつくづく感心するのでした。

2013-06-06

宮内悠介『ヨハネスブルグの天使たち』



ヨハネスブルグの天使たち

短篇集。ちょっと未来、ゆるやかにつながっている同じ世界のいろいろな場所で、民族主義や宗教など現実的な問題を扱った連作短編集となっている。

背景として出てくるのはDX9というアンドロイド。日本製で、もともと玩具というか楽器として販売されはじめた、というどこかで聞いたような設定をベースにして、シミュレーションに使われたり、兵器になったり、といったかたちで作品たちを彩る。とはいえ、これはあくまでも背景であり、同一の世界であるということを強調するための小道具みたいなものであって、物語の主軸はやはり先述したようなものということになる。

ただ、表題作の「ヨハネスブルグの天使たち」は個人的にはそこまででもないような気がした。今よりも少し未来、民族主義が強まって内戦状態になった南アフリカで最大の都市であるヨハネスブルグを舞台に、ポンテタワーを念頭に置いているような印象を受けたマディバタワー、そこに日本が試作したDX9というアンドロイドの落下耐久試験場を設置して、年がら年中墜落させているという設定は魅力的なのだが、しかし、ストリートチルドレンとしてしたたかに生きる主人公たちの物語とこの設定がどこか咬み合っておらず、なんとなくふたつの設定が併置されているだけのような印象を受けた。

個人的に面白く読んだのは「ロワーサイドの幽霊たち」と「ジャララバードの兵士たち」。

「ロワーサイドの幽霊たち」は9.11の40周年に向けてツインタワーを再建し、そしてまた飛行機の追突事故を再現させるというすごい設定だが、これは読ませるものがある。後年のシミュレーションによって過去の事件を幻視するという手法は著者が前著ですでにやったことに似ているが、この作品でも効果的に機能していると思う。
様々な参考文献に依拠しつつ視点人物の心情を大胆に取り入れて描いたりするフィクションの手法を取ること、そしてシミュレーションというものをある種の言い訳にして描いている点には、個人的にはモヤモヤするものがないでもないのだが……。

「ジャララバードの兵士たち」はアフガニスタンを舞台にしてあるアメリカ軍兵の殺人事件を軸に、とある陰謀に巻き込まれる主人公たちの話。ストーリーとしても一番ふつうのSFっぽく、また帯にいう「伊藤計劃」的な世界観に一番合致しているのが本作だろう。そうした意味で本書のなかで一番「ふつうに面白い」と思う。また、DX9が戦闘兵器として登場する冒頭部分はけっこうかっこいい。