2013-06-06

宮内悠介『ヨハネスブルグの天使たち』



ヨハネスブルグの天使たち

短篇集。ちょっと未来、ゆるやかにつながっている同じ世界のいろいろな場所で、民族主義や宗教など現実的な問題を扱った連作短編集となっている。

背景として出てくるのはDX9というアンドロイド。日本製で、もともと玩具というか楽器として販売されはじめた、というどこかで聞いたような設定をベースにして、シミュレーションに使われたり、兵器になったり、といったかたちで作品たちを彩る。とはいえ、これはあくまでも背景であり、同一の世界であるということを強調するための小道具みたいなものであって、物語の主軸はやはり先述したようなものということになる。

ただ、表題作の「ヨハネスブルグの天使たち」は個人的にはそこまででもないような気がした。今よりも少し未来、民族主義が強まって内戦状態になった南アフリカで最大の都市であるヨハネスブルグを舞台に、ポンテタワーを念頭に置いているような印象を受けたマディバタワー、そこに日本が試作したDX9というアンドロイドの落下耐久試験場を設置して、年がら年中墜落させているという設定は魅力的なのだが、しかし、ストリートチルドレンとしてしたたかに生きる主人公たちの物語とこの設定がどこか咬み合っておらず、なんとなくふたつの設定が併置されているだけのような印象を受けた。

個人的に面白く読んだのは「ロワーサイドの幽霊たち」と「ジャララバードの兵士たち」。

「ロワーサイドの幽霊たち」は9.11の40周年に向けてツインタワーを再建し、そしてまた飛行機の追突事故を再現させるというすごい設定だが、これは読ませるものがある。後年のシミュレーションによって過去の事件を幻視するという手法は著者が前著ですでにやったことに似ているが、この作品でも効果的に機能していると思う。
様々な参考文献に依拠しつつ視点人物の心情を大胆に取り入れて描いたりするフィクションの手法を取ること、そしてシミュレーションというものをある種の言い訳にして描いている点には、個人的にはモヤモヤするものがないでもないのだが……。

「ジャララバードの兵士たち」はアフガニスタンを舞台にしてあるアメリカ軍兵の殺人事件を軸に、とある陰謀に巻き込まれる主人公たちの話。ストーリーとしても一番ふつうのSFっぽく、また帯にいう「伊藤計劃」的な世界観に一番合致しているのが本作だろう。そうした意味で本書のなかで一番「ふつうに面白い」と思う。また、DX9が戦闘兵器として登場する冒頭部分はけっこうかっこいい。