2013-01-23

ダン・アリエリー『ずる』

ずる―嘘とごまかしの行動経済学

予想どおりに不合理』『不合理だからうまくいく』の著者で行動経済学者のダン・アリエリーの3冊目。今回のタイトルは「ずる」ということで、不正、嘘、自己欺瞞などにまつわる行動について解説している。

ぼくは、なんだかんだでこの3冊とも読んでいて、この人の本は面白いと思う。今回の本もとても面白かった。

アリエリーの本の面白さは、ウィットに富んだ内容や興味深い中身ももちろんだが、明快な論旨と本としての構成の的確さがそれを支えているように思う。どの本のどの章も、だいたい同じような構成になっている。日常だれでもふと抱くような疑問(たとえば、「人間はごまかせるときに実際にごまかすのだろうか? どれぐらい? ごまかしの量は何によって変化するのか?」)が、身近な例とともに提示され、その疑問を見事につくような心理実験の設定が解説され、その結果と、その結果から何が言えるかが端的に示される。内容の興味深さ、著者自身の主張などが、こうした構成の的確さに支えられている。

もちろん、心理実験自体のおもしろさ、というのもある。心理実験というのは傍から見ていると面白い。はっきり言えばだましうちみたいなものだからだ。たとえば、他人の影響のためにサクラの学生を雇って、問題を解く試験の開始直後に「全部できたんですけどどうしたらいいですか」と質問させる。明らかにズルだ!と誰でもはっきりわかるように。

ただ一方で、なんというか、ネタ切れというのとも違うが、一本調子になってきたなという不安もある。今回は『予想どおりに不合理』でも取り上げられた実験が何回か出てきたし、私がどこかで聞きかじったのか前著に出てきたのか、見聞きしたことのあるようなネタも出てきた。もっとも、アリエリーも自著を全部読んでもらうということは想定しておらず、どれでも入り口になればいいと思っているのかもしれないが……。

私の感じる不安というのは、あれだ。このままアリエリーが一般書で実験結果の紹介をしていくと、本で紹介していく内容のスピードが研究の進捗を上回り、いずれネタ切れになってしまうのではないか。そうなっちゃったらどうしよう、みたいな妙な不安だ。本書『ずる』では、ちょっとそういう不安を感じさせる側面も出てき始めたように思った。

だが、それはそれなりにこの辺のネタに興味のある物好きの戯言かもしれない。どれでもいいので、みなさんも読んでみたらいいと思う。