2014-02-07

『絶園のテンペスト』。世界の存亡をかけたフーダニット

絶園のテンペスト

唐突ながらふと『絶園のテンペスト』を全巻イッキよみしました。といっても10冊ですが。世事にすっかり疎くなってしまいましたがアニメ化もされてたのね。まーけっこう面白かった。

いわゆる「能力バトルもの」の一種で、登場人物たちの一部は「はじまりの樹」とよばれる超常パワーをもった世界樹のようなものから力を授かる魔法使いの一族。彼らは伝承に背き、ひとり反対する姫君を離島に封じ込め、かつて「はじまりの樹」によって封じられたという「絶園の樹」の復活を目論みます。普通の人間である少年ふたりがふとしたきっかけから、このお姫様とつながり、「はじまりの樹」と「絶園の樹」をめぐる戦いに巻き込まれる、といった筋立て。

こういう基本的な設定そのものは言ってしまえばありきたりですが(それでも能力バトルものとしては魔法使いの設定などはけっこうユニークではあります)、ぼく個人としては、ストーリーが不思議にロジカルな組み立てになっているところに面白さを感じました。登場人物たちは自らの行動原理や行動規範を明らかにしつつ行動しているのですが、それらがパズルのように組み合わさって物語が進んでいく面白さがあります(そういう意味ではきわめていびつな、というか、きわめて人造的な感覚の強い物語です。amazonのレビューでも不評がそれなりにあるのはこの辺が理由かなと)。

さらにこの「パズル」を成り立たせるキモとなるのが、この作品のキーでもある「はじまりの樹」の設定で、こいつは世界の成り立ちにかかわる世界樹のようなものであり、物事の因果すら操ることができることになっています。このため、とくに物語の後半においては、ごく普通の少年である主人公ふたりがこうした物語に関わり重要な役割を(結果的にだが)負うことになるからには、そうなるだけの理由があるはずだ(でなければそこには、「はじまりの樹」の力が及びづらい「絶園の樹」の力が関わっているはずだ)、という論理が成り立つことになります。

主人公ふたり滝川吉野とその友人の不破真広が物語にかかわる根本的な原因は、「真広の妹が何者かによって殺された」という理不尽でした。したがって、その死はただの強盗などではなく、何らかの理由があってもたらされたものでなければならない、ということになります。ではその死は誰によって、なぜもたらされたのか? この謎が物語後半を駆動するエンジンとなっていきます。

まあとはいえミステリとしては弱くて、真相自体は読んでいればふつうは予想がつくんですが、世界の存亡をかけた戦いが、ひとりの少女の殺害の謎に収束していくあたりの展開はなかなか良い感じ。

物語自体は9巻で終わって、最終巻はいろんなキャラの外伝的なストーリーになっているので(それにしても最近こういうの多いですね)、一般的には能力バトル+キャラクターの関係性を楽しむものとして読まれており、こういう読み方は邪道かもしれません、けどね。

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