2014-12-22

マックス・バリー『Lexicon』。良質のエンタメ



Max Barry "Lexicon"

なんとなく原書で買ったが積んであったのをようやく読んだが面白かった。ページ・ターナーという言葉があるがまさにそういう感じの面白さ。

言葉によって人間の脳をハックして意のままに操る「説得」の能力を伝える秘密組織の「詩人」たち、という設定がまずイカしていて、とある理由により彼らの戦いに巻き込まれる一般人とおぼしき男のストーリーと、それと別にサンフランシスコで奇術をやっていた少女がスカウトされ、詩人としての訓練を積んでいく物語が交互に語られていく。この2つの物語がどう合流していくかは……まあすぐ予測はつくんだけど、それでも細部をうまく隠したまま物語をドライブさせていく手法は見事。

「言葉によって人を操る」といった設定やテーマは日本SFでも類例が多い気がするけれど、えてしてメタフィクショナルで衒学的にかっこつけてしまいがちということが観測されているように思う。本書はきっぱりとエンタメであって、そういう深みは一切ない……というとけなしているようだがそうではなくて、そこにあえて踏み入れなかったところがむしろエンタメ作家としてのマックス・バリーのえらいところなのではないかな、と思った。

「神経言語学」という単語を使って「言葉はただの音じゃない、言葉は意味を伝え、脳に特定の反応を引き起こす。ある言葉や音によって、この反応を誤作動させることができる」という設定、登場する「詩人」たちが実在の詩人の名前を借りたコードネームで名乗っているところなど、異能バトル漫画っぽい雰囲気すらある。結果としては「なんか呪文を唱えると相手を操れる」という微妙に安っぽい描写になっているところも含めて、まあよろしいのではないでしょうか、という気分。

楽しく読んだけれど、マックス・バリーはこれまでもそれなりに訳されているから、本書もやがて訳されることでしょう。がんばって英語で読む意味はあんまりないです。