ベン・ウィンタース『カウントダウンシティ』
『地上最後の刑事』の続編(→感想)。
『地上最後の刑事』では、小惑星の衝突による人類滅亡まであと半年という時期において、とある片田舎の街のふつうの刑事が事件を追う、という話だった。いわゆる破滅ものだけれど、あまり真剣にSFしてなくて、あくまでも警察小説としての体裁を保つことで、そこからかいま見える人類社会を描いているところがユニークで面白かった。
続編の本作は、衝突までもう3ヶ月を切ったある日。警察組織自体がほぼ崩壊していて退職した主人公が、知り合いの女性に頼られて失踪した夫を探す、という筋立て。
前巻の感想の最後に、続刊はつまらなくなるかも、という懸念を書いておいた。人類滅亡の日は決まっているけれどもそれはまだ半年先で、人によってはいろいろ好き勝手なことが始まっているけれども、社会は崩壊しきっていなくて、警察も士気は低いけれどもいちおう組織としては残っていて、みたいな奇妙なバランスが妙味だと思ったので、破滅が近づくとこのバランスが崩れちゃうっていう気もしたので。
この懸念はある程度あたっていた。滅亡までのカウントダウンは始まってしまい、社会はいろんなレベルで壊れている。食品配給制度が始まっていて、インフラは壊れ、電気や水道が使えなくなることもあり、主人公は警察をクビになっている。主人公が捜査の必要からあちこちに赴いた結果として、そういう社会の有り様が明らかになっていく小説手法は健在で、そこは面白かったのだけれど、前巻のような奇妙なバランスはもうない。これはほとんど破滅SFといってよく、そのわりに失踪者を探すという事件の「大したことなさ」はもうバランスが取れていない。それに最終的な事件の解決もあっさりしていて、なぜこの設定とこの展開にたいしてこんな事件なのか?というのが謎めいている。
前巻は士気の下がりきった警察組織のなかで何故か捜査を行う主人公というのがノワールっぽくなっている、という指摘があったけれど、その点で言うと今巻では主人公はもうクビになっているので、ある種「元警察の探偵」風味になっているところは面白くはある。でもまあそれは些事かな。
前巻でも奇妙に空虚だった主人公の捜査への動機はいっそう空白になり、一人称小説なのに主人公が何を考えて行動しているのか疑問と言わざるをえない話になっている……というのはまあ、主人公が実質的に狂言回しだからなのだけれど、そういう構成が読者にあからさまになってしまうのは残念感もある。
ここまで来たら最後まで読みたいところだし、個人的には面白く読んだけれど、まぁ前巻ほどではないかな。前巻を読んですごく気に入った自分みたいな人は読むべきですね。
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