神々廻楽市『鴉龍天晴』
第2回ハヤカワSFコンテスト最終候補作。
関ヶ原の戦いで小早川秀秋が日和見を決め込み、結果として徳川の支配する東国と豊臣の支配する西国に別れたまま200年の太平の世が過ぎた後、ペリー来航から日米修好通商条約あたりまでの「幕末」を描いている。
東国は三種の神器に由来する技術を受け継いだ鬼巧というメカがいて、西国は古来の妖怪たちが味方する、という異世界的な設定と、幕末の史実通りの人と史実にはいない人間とが虚実ないまぜで跳梁する歴史ファンタジーというかスチームパンクというか、といった風情。
良い点をまず挙げると、キャラの描き方は魅力的なところ。ちょっとラノベっぽい感じでもあるが、読んでいるあいだは楽しいし魅力的だ。いろんな(裏)設定も見え隠れするし、それぞれにキャラが立っている。キャラクターの語り口調も江戸時代〜幕末っぽさと現代っぽさがいい塩梅で入り混じっており、読みづらさもないが変に現代っぽすぎず、楽しい。
悪い点は、良い点と表裏一体ではあるけれど、キャラクターも設定も詰め込みすぎてしまったところ。いろんなキャラクターのそれぞれの立場が次第に明らかになってくる中盤以降、さてこれをどうまとめるのかな、と思っていたら今ひとつまとまらずに終わってしまった感がある。
よく「アイデアを詰め込みすぎて話としては破綻している」っていうのはSFに対しては褒め言葉になっている(と思う)し、個人的にもそういうSFって好きなんだけど、残念ながら本作はそういうのとは少し違う。単に個別の要素がいまひとつうまく昇華されていないように思われる。もう一歩といった感がある。
そしてもう一つ、この架空の歴史においてこの物語が描いている事件とはなんだったのか?というところにもいささか疑問がある。日米和親条約が結ばれてから日米修好通商条約と将軍跡継ぎ問題のタイミングを描いているのだが、なぜこのタイミングのこのエピソードを描いたのか? いわゆる「歴史が動いた」タイミングはほかにもありそうな気がするのだが……まあそれは難癖みたいなものだけれど、少し気になるところでもある。
そういうわけで、面白いんだがもうひとつまとまりが悪いのが惜しい。ただ同作者の次回作が気になるほどには楽しんで読んだ。
# それとこのペンネーム……ちょっと読めないですよ。奥付にふりがなふってあるけど次に見ても読み方わすれてる自信があるな……
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