星の民のクリスマス
第25回日本ファンタジーノベル大賞の大賞受賞作。結論から書いておくと、自分はけっこう気に入った。良いと思います。
ある歴史小説家が幼い娘のために書いたクリスマス童話。ところがその娘がその童話の世界に入り込んでしまう、というメタフィクション的なファンタジーだ。童話のほうはトナカイとサンタクロースとキツツキの子が出てくる可愛らしい掌編だが、この童話をベースにした「町」は長い歴史を持つ異世界になっており、サンタはいないし、トナカイもキツツキの子も象徴的い扱われている。そんな町に迷いこんでしまった娘と父親の歴史小説家によって引き起こされる騒動、とまあそんな感じの話。
設定的にはわりによくありそうなファンタジーという気がするが、この作品のユニークなところは、こういう構造のファンタジーとしては、童話がベースになった「町」が妙に現実的だというところだろう。もちろん常に雪が降っていて雪が光るといった設定は童話的なのだけれど、この町自体には長い歴史があり、民主的な政府があり、人々もふつうに生活をしている。クリスマスを意味する「贈り物」は町の重大なイベントだと認識されてはいるものの、それがなぜかといえば、贈るという行為が町と光る雪の維持に欠かせないものだという認識があるからであって、誰に、何のために贈るのかすら町の人々はわかっていなかったりする。配達員たちは世代交代しつつその任務を負っている。
町に住む登場人物たちも、それぞれに複雑な背景を背負っていて、味がある。なかでも味があるのは、トナカイの子の役を担うキャラクターだろう。幼いながらに高い知能を持ち、町の歴史に興味を持っているトリックスター的なキャラクターだ。そういうキャラクターだからこそ、町のいわば「創造主」である歴史小説家と邂逅することで物語が進んでいくというわけだ。
ただ、読んでいて感じたのは「よく書けていて面白いけれども、まあフツーだな」というものだった。上述したような設定は確かにひねってあるといえばひねってあるが、ものすごく斬新ということでもない。お話としてはよく出来ていて楽しく読めるが、突出してはいない。
だったのだけれども、最後まで読んで気が変わった。詳しくは書かないが、最後の最後でこの話にはメタフィクション的なオチがつくのだけど、そこが気に入った。メタっぽい構造だよなあと思いつつ読んでいるとオチそれなんだ!というのが心地よかった。
もちろんこのオチだけで評価するというのは正しくないと思うけれども、そういうわけで全体としてはぼくはけっこう気に入った。それがなくても、完成度の高いファンタジーだと思う。
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