2013-12-12

Nick Bilton "Hatching Twitter" ツイッター創業者たちの愛憎劇



Nick Bilton "Hatching Twitter: A true story of money, power, friendship, and betrayal" を読んだ。

タイトルは訳すなら『ツイッターの孵化』といったところだろうか。鳥がコーポレートアイデンティティであることにひっかけている。

ツイッターのはじまりから、ごく最近までにかけてを綿密な取材をもとに書き起こした本ということになるのだけど、この本の主体は、一癖も二癖もあるような創業者の面々だ。彼らとその周辺の人々が主な登場人物となって、その誕生から成功、さらに権力闘争などが語られる。

ツイッターのそもそものはじまりは、Odeoというポッドキャストの会社にある、と本書ははじめる。Bloggerが買収されて在籍してたGoogleをやめたエヴァン・ウィリアムズ(エヴ)は、ノア・グラスに誘われてOdeoを始める。

やがて、田舎から出てきたばかりの物静かな若者だったジャック・ドーシーや、同じくGoogleをやめたビズ・ストーンがOdeoに加わる。だが、 iTunes がポッドキャストのサポートをはじめるなど強い競合が多く、ポッドキャストのビジネスはうまくいかなくなる。そこで、ジャックのアイディアをもとにノアとジャックで最初期のツイッターが作られる。

だがやがてノアはいろいろ問題を起こし、エヴとジャックが画策して追い出されてしまう(そしてノアの名前はツイッターの歴史からほぼ見えなくなる)。一方、Odeoは本格的にうまくいかなくなったのでツイッターを会社として創業し、ジャックがそのCEOに就任。ツイッターはSouth by Southwestの受賞などで有名になり、どんどん成長していく。

だがジャックもまたツイッターの成長に沿った戦略が立てられず、問題視されてくる。ここは細かくは書かれないが、おそらくエヴの画策などをもとにジャックもまた追い出されてエヴがCEOになる。そしてテレビのトークショーに出たり、政治家も使い始めたり、イラン革命などツイッターは重要性をどんどん増していく。

だがさらにエヴにもまた、急拡大したツイッターをうまくまとめることができず、さらに追い出されたジャックも暗躍し、最終的にはエヴも追い出されてしまう……。

うーん、こうやってまとめるとひどい人たちだなぁ。読んでいても「こーゆー手合とは付き合いたくないな」とつくづく思うようなエピソードが多くてなかなかしんどい。良くも悪くも、少ない人数での濃い人間関係があって、そこに会社の急激な成功による権力関係が入り交じることによるめんどくさい愛憎劇、というのが本書の主題であろうと思う。


そういう意味で、会社としてのツイッターの成長や拡大はどちらかといえば脇に置かれている。イランの話、政治家が使い始めた話、ツイッターがどう使われてきたか、などなどのエピソードはまったく出てこない(追記2013/12/12 22:02:読み返してびっくり。この文章は間違い。下記に補足するけど、その辺の話は出てきます)。サイトがよく落ちてた、というのも言及されるが、それをどうするかというCEOの問題行動の描写として、やっぱり背景的に描かれている。

よくある技術の会社の本は、こういう問題があって、こういう奴が入ってきて解決されて、みたいなストーリーだったりする。プロジェクトXとかはまさにそう。ああいう感動的な物語を期待して読むとちょっと鼻白む。そういう話は一切ない。この本は、創業者たちの(ドロドロした)人間関係の物語なのだ。

(追記2013/12/12 22:02:で、上の追記の補足だが、イランの話や政治家の話などはかなり出てくる。オバマの話やメドヴェージェフ大統領が訪問した話も出てくる。だけど、ここで書きたかったのは、この本は創業者たちの物語なので、創業者と関わりの薄い事件は取り上げられていない、ということ。たとえば日本に関するエピソードはない。日本じたい、エヴが解任されようというときにビズが訪日中だった、というくだりでしか言及がない。ほかにもたとえば、ツイッターの機能といえば、140字の文字制限や、ハッシュタグの話は出てくるけれど、どういう機能がユーザが使っていくなかで発達してきたか、などの言及もほぼゼロ。まあ、そういう本だということです)

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本としては、かなり踏み込んで登場人物の心境をも描いているので、面白いとも言えるし小説とも言えるようなレベルのものもある。そういう意味では、ある種の脚色というか、事実に立脚した物語と言えるような部分もあるだろうと思う。それはそれで悪くない、というか、この本の主題を描くのに向いている。ノアの失脚のパラグラフなど、かなりぐっとくるのだ。
Noah didn't fight because he realized it wasn't power that he had been after when he started Odeo. More than fame and more than fortune, he had just wanted friends.
(拙訳:ノアは戦わなかった。というのも、自分がOdeoを始めたときに求めていたのは権力でなかったことがわかったからだ。名誉よりも幸運富よりも、彼は単に友だちが欲しかったのだ。)
そんなことまで言い切っていいの、と思うわけだが……また、ジャックの失脚やエヴの失脚でも、複数の場所で起こっていることを次々にカットバックしていくことで緊迫感と臨場感を出している。

どうでもいいけど、本書の著者はノア・グラスにはやさしいが(終章でも救いのある終わり方になっている)、ジャック・ドーシーにはとても手厳しい。カバーにある短い紹介でも「メディアに次なるスティーブ・ジョブスと思わせた」とか書いてあるし、終章もなんだかなあって感じだ。ジャックが追い出されたときはエヴが何をしたのかはあまり書かれていないが、エヴが追い出されたときのジャックの暗躍はいろいろと書いてある。

その辺は取材対象の偏りなどに起因する偏りなのかもしれない。

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が、いずれにせよ、お話としてはとても面白い。おすすめです。

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追記 2013/12/18 11:12 --- The Vergeによると、本書のテレビドラマ化が進行中らしい。読んでいても、このドラマチックさは映画っぽいなーとずっと思っていて、最近はやりの映画化も視野に入れているのかな、それにしては紆余曲折が長いかな、とは感じていたけれど、まさかのドラマ化でした。

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