謎の独立国家ソマリランド
+Shunichi Arai さんがべた褒めしていた本なので気になっていたが、めでたく電子化されたということで読了。たしかにめっぽう面白い。
独裁政権が倒れてから20年以上も無政府状態のまま内戦が続き、群雄割拠の戦国時代と化したソマリアと、そのなかにあってなぜか武装解除を実現し、平和を保つことに成功した自称独立国家のソマリランドに赴き、その実態を描いたルポタージュ。ごくごく薄いつてを辿って現地に入り、現地民と一緒にカートという麻薬を一緒にのみながら(食べながら?)交流しつつ、外部にはほとんど伝わってこないソマリランドとソマリアの実態を紹介していく。
面白い本なのは間違いないが、なにがどう面白いのか、ということを一言で表現するのは難しい。
一言で表現することが難しい理由のひとつは、内容は多岐にわたっているということもあるだろう。ソマリアの歴史、ソマリランド分離独立の根拠や歴史、そしてなぜ、ソマリアのほかの地域が紛争に明け暮れているのにソマリランドでだけ武装解除が可能だったのか。これが本書のメインの主題なのだがそれだけではない。
隣接するプントランドはほとんど「海賊国家」と化していて、ソマリア海賊の本拠地となっている(らしい)。それはなぜか? 逆に、なんでソマリランドには海賊がいないのか? 「リアル北斗の拳」などとすら言われる南部ソマリアはいったいどうなっているのか? かつての首都はどうなっているのか? アルカイダの支援があるというイスラム原理主義組織は現地民に受け入れられているのか?
著者は平和とされているソマリランドだけではなく、こうした紛争地帯のような場所にも足を運び、現地の人々に取材をし、こうした疑問に挑んでいく。
取材というが、そういう単語では言い表せなさそうなもっと壮絶なものだ。エピローグで軽い感じで紹介されているが、著者はソマリア取材中にイスラム原理主義勢力に襲撃され、護衛の車が爆破され複数人が負傷するような事態にも巻き込まれたのだという。読んでいても、このままこの人死ぬんちゃうかな……いやでも本が出てるから大丈夫なはずだな……という考えが脳裏をかすめる。とんでもない世界だ。
そしてその足でふたたびソマリランドに戻ってきた時、その奇跡のような平和さを読者も追体験することになる。一周してソマリランドを2回紹介する構成なので不思議な構成の本だと思うが、こういう意味では的確な構成でもあるように思う。そうしてソマリたちの制度や慣習、ソマリランドの制度を調査紹介していくうちに、最終的にはソマリランドの制度がむしろよく出来ていると褒め称えるぐらいになっている。……それはまあカートの見せた幻想だろうと話半分にするとしても、現地に入り込んだ人間にしかかけないリアリティはある。
個人的には一番すごいなと思ったのは、著者が案内人といっしょに実際に海賊行為の算段をはじめ、見積もりを取り始めるところ。ホテルの隣室にたまたま海賊が泊まってたよ、といって実際に何が必要なのかを聞いてきて、コストと利益を比較する。そうやって海賊行為がどういう計算のもとにどうして行われているのか、外国人が裏で暗躍するというのがどういうことか理解できたとするだが……ことここにいたり、これはちょっと類を見ないタイプの本だなと思った。
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なお、ソマリアに多数いる氏族や分家の勢力関係をわかりやすく表現するために、なぜか著者は平家や源氏、北条氏、はては武田や伊達などといった武将の家名や名前をラベル付に利用している。これがこの本の一種独特な雰囲気というかフィクションぽさを強めているように思えて、嫌いな人は嫌いなんじゃないかと思うが、実際たしかにこのほうが頭に入りやすいのは確かだなぁと思ったので俺は良いと思います。
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