代書屋ミクラ
読んでいて、この本はけっきょくどういうジャンルの本なのか、というのがわからなくなってしまい、最後までなんとなく温度差を感じたまま読み終えてしまった。読み終えたあとしばらくして、ようやくこれが恋愛小説だったのではないかと気づいた。
いちおう初出のうち一つはSFのアンソロジーでもあり、架空っぽい設定ではあるんだけれども、ストーリーじたいにはとくに超自然性は何もない。いちおうの設定としては、「出すか出されるか法」と通称される法律により、アカデミックポストの人間は一定期間内に書いた論文のIF値の合計が一定量ないとポストを失う(テニュアがない)という厳しい制度が導入された、というもの。主人公はとある大学の近所に住み、その大学の教員から依頼を受け、データをまとめて論文として仕立てあげる「代書屋」というわけ。
だがまあ、全体的にふわふわして浮ついたメルヘンチックな世界な気がする。主人公のミクラは毎度毎度、何かの拍子で出会う女の子に淡い思いを抱きつつ特に何事もなく、やんわり振られたりほかの男に取られたり実は既婚者だということがわかったりする。とまあそんだけの話。
もともとこの設定とキャラは、著者のデビュー作を含む短篇集『あがり』で登場し、そのときは、ミクラの身辺での日常と、教授から渡された研究テーマが微妙にリンクしたりしながら物語が進んでいくという面白さがあったように思う。が、この本ではそういう部分は消えてしまっている。残ったのは、ミクラの身辺の描写と教授とのやりとりだけであり、具体的には女の子が出てきて何も起きないということ、である。
で、それが面白いのかどうかといえば、まあ面白いといえば面白い気はするのだが、こう何度も続けて読むとなんだかよくわからない。恋愛小説であった場合にはミクラに共感的に読むことになり、そう読めば面白いのかもしれないが、うーん、面白いのかなぁ……。
また著者は、人名など固有名詞以外ではカタカナ語を使わないという不思議なポリシーを持っていて、本書でもそれが貫かれている。「麦酒」に「びーる」と(ひらがなで)ルビを振ったり、「自然」という学術誌(ネイチャーのことと思われる)が出てきたり、一方で、「かけんひ」となぜかひらがなで書き下す。おかげで何か不思議な、現実と遊離した世界になっているような気もするが、これがいいのか悪いのか何の意味もないのか、やっぱりよくわからないのだった。
というわけで、一言で言うと、謎。という感じの本でした。
読んでいて、この本はけっきょくどういうジャンルの本なのか、というのがわからなくなってしまい、最後までなんとなく温度差を感じたまま読み終えてしまった。読み終えたあとしばらくして、ようやくこれが恋愛小説だったのではないかと気づいた。
いちおう初出のうち一つはSFのアンソロジーでもあり、架空っぽい設定ではあるんだけれども、ストーリーじたいにはとくに超自然性は何もない。いちおうの設定としては、「出すか出されるか法」と通称される法律により、アカデミックポストの人間は一定期間内に書いた論文のIF値の合計が一定量ないとポストを失う(テニュアがない)という厳しい制度が導入された、というもの。主人公はとある大学の近所に住み、その大学の教員から依頼を受け、データをまとめて論文として仕立てあげる「代書屋」というわけ。
だがまあ、全体的にふわふわして浮ついたメルヘンチックな世界な気がする。主人公のミクラは毎度毎度、何かの拍子で出会う女の子に淡い思いを抱きつつ特に何事もなく、やんわり振られたりほかの男に取られたり実は既婚者だということがわかったりする。とまあそんだけの話。
もともとこの設定とキャラは、著者のデビュー作を含む短篇集『あがり』で登場し、そのときは、ミクラの身辺での日常と、教授から渡された研究テーマが微妙にリンクしたりしながら物語が進んでいくという面白さがあったように思う。が、この本ではそういう部分は消えてしまっている。残ったのは、ミクラの身辺の描写と教授とのやりとりだけであり、具体的には女の子が出てきて何も起きないということ、である。
で、それが面白いのかどうかといえば、まあ面白いといえば面白い気はするのだが、こう何度も続けて読むとなんだかよくわからない。恋愛小説であった場合にはミクラに共感的に読むことになり、そう読めば面白いのかもしれないが、うーん、面白いのかなぁ……。
また著者は、人名など固有名詞以外ではカタカナ語を使わないという不思議なポリシーを持っていて、本書でもそれが貫かれている。「麦酒」に「びーる」と(ひらがなで)ルビを振ったり、「自然」という学術誌(ネイチャーのことと思われる)が出てきたり、一方で、「かけんひ」となぜかひらがなで書き下す。おかげで何か不思議な、現実と遊離した世界になっているような気もするが、これがいいのか悪いのか何の意味もないのか、やっぱりよくわからないのだった。
というわけで、一言で言うと、謎。という感じの本でした。
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